2023年8月にAMR臨床リファレンスセンターから「抗菌薬はかぜを治す薬ではありません-未就学児の親への抗菌薬に関する調査-」というニュースレターが出ていました。まだまだ抗生物質を正しく使ってもらえていないようです。子どもだけでなく一般的な話にもつながりますので、そうなの?と思った方は本コラムと併せて是非このニュースレターもご一読いただければと思います。
今回はナビスちゃんと一緒に、薬剤耐性の防止に役立つグラム染色についてまとめてみようと思います。
グラム染色...学校で習ったけどよく知らないのよね
1.薬の効果が出ない感染症がある?
細菌やウイルスの感染症の治療では、抗生物質や抗ウイルスの作用をもつ薬剤を使用することがあります。近年、薬の効かない細菌やウイルスが問題視されています。この薬が効かないことを薬剤耐性(AMR)と言います。厚生労働省では2016年4月に薬剤耐性(AMR)対策についてアクションプランを決定し、薬剤の適正使用の推進をしています。1) これに基づきAMR臨床リファレンスセンターの啓発サイトなども運営されています。2)
感染症の原因の一つである細菌については医療現場で抗生物質を使用してきました。しかし、これまで適切に使用されてこなかったために、効果があるはずの薬剤が効きにくくなっている、もしくは効果が出ない細菌が出てくるようになりました。
例えば、カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)、多剤耐性アシネトバクター(MDRA)などが報告されており、特に病院ではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が問題となっています。
通常であれば、その細菌に効果のある薬剤を「効果のある十分な量」「効果のでる十分な期間」使用すれば、細菌をしっかりとやっつけることができます。
しかし、十分な量を使用しなかったり、十分な期間使用しなかったりすると薬に耐性を持った細菌が生き残ります。(抗生物質が処方されたときに薬を全部のみきるように指導されるのはこのためです)
健康な人であれば問題ない場合でも、体が弱っていて自然治癒ができないような患者さんに薬剤が効かないとなると治療が難しくなるのは想像に難くないと思います。
これらの薬剤耐性菌を増やさないためには、抗生物質を正しく使用する必要があります。
そして、抗生物質を選ぶためには、
・患者さんが細菌に感染しているかどうか
・どの種類の細菌なのか
を調べる必要があります。ウイルスに対しては抗生物質が効かないため、細菌に感染していなければ抗生物質は必要ありませんし、細菌が特定できれば特定の細菌にのみ効果のある抗生物質をピンポイントで使用することで耐性菌のリスクを減らすことができます。3)
細菌の種類をおおまかに特定するために簡単に調べる方法としてグラム染色があります。 そこで、今回はグラム染色について調べてみました。
本題まで長いのよ
2.グラム染色とは
細菌は染色することで種類を分けることができます。グラム染色では細菌の細胞壁の厚さによって色の染まり方に違いが起きることを利用して、2種類のグループに分けることができます。
紫色に染まった細菌はグラム陽性細菌、赤色に染まった細菌はグラム陰性細菌と言います。この色の区別に加えて細菌の形や標本の採れた場所(喀痰、尿、傷口など)、細菌の集まり方等で細菌の種類を特定することができます。
グラム染色には ハッカー変法・バーミー法・西岡変法(フェイバー法)など複数の種類があり、方法によって使用する試薬や工程が異なります。
代表的な染色方法
- スライドグラスに、菌を含む菌液を、綿棒などで薄く曇る程度に塗抹し乾燥する
- 炎またはアルコールで固定する
- クリスタルバイオレットまたはゲンチアナバイオレットなどの塩基性の紫色色素液で染色する
⇒この段階では、菌はグラム陽性と陰性に関わらず紫色に染まる - ルゴール液(ヨウ素−ヨウ化カリウム溶液)で色素液を洗い流すようにして処理する
⇒この処理で色素が不溶化する - 水洗した後、かるく水分をとる
- 95%エタノールで、手早く、色素が浮き上がってこなくなるまで脱色する
⇒この段階でグラム陰性菌だけが脱色される - 水洗し、風乾する
- サフラニンまたはフクシンなどの赤色色素で染色する(対比染色)
⇒この処理で両方の菌は赤く染色されるが、グラム陽性菌は先に染めた紫色が残っているため変化はない - 乾燥後、光学顕微鏡1000倍で観察する
⇒グラム陽性菌は紫色、グラム陰性菌は赤色に染まって見える
細菌の例
(桿菌)ボツリヌス菌・破傷風菌、放線菌、ビフィズス菌
(桿菌または球菌)乳酸菌
(桿菌)腸内細菌科、緑膿菌、サルモネラ菌、百日咳菌
(らせん菌)ピロリ菌
高額な機械を使わないところと
すぐに結果が分かるのがいいね
3.取扱い商品のご紹介
◇セミプラノレンズ生物顕微鏡(LEDライト) 双眼 40~1000× E-138-LED (8-4171-02)
◇ECプランレンズ生物顕微鏡 双眼 40~1000× MP38B(3-6692-01)
◇ナビスプラノレンズ生物顕微鏡 単眼 N-236-LED(8-5816-01)
◇油浸オイル(イマージョンオイル) ASI‐12(2-9503-01)
◇イマージョンオイル(油浸オイル)8mL D21-8172(64-9128-04)
◇スライドガラス(マリエンフェルド・ドイツ製) 切放・透明フロスト 50枚入 10 052 00(8-5811-02)
◇武藤化学 スライドグラス 100枚入
※フクシンとサフラニンはどちらかを選択
◇武藤化学 メーカーHP
グラム・ハッカー染色液1
グラム・ハッカー染色液2
グラム・ハッカー染色液3
※他メーカーの試薬も取り寄せできるものがございます。 詳細はお問い合わせください。
綿棒:喀痰などの塗布に使用
メタノール ※劇物
◇メタノール メチルアルコール 特級
あると便利なものも紹介するよ
ペーパータオル
◇アズワンのペーパータオル(ダブルソフト)
スライドガラスたて
◇スライド・オベクト架 20枚用 2個入
◇スライド立て SL-2N 2個組 G40-5756-02
角バット
手袋
◇プロシェアプラスチック手袋 薄手タイプ パウダーフリー
ホモジナイザー・ストマッカー
◇ガラス製ホモジナイザー(硼珪酸ガラス)
◇バッグホモジナイザー 二連タイプ BH-W(2-4219-01)
4.まとめ
医療機関でグラム染色を行うことで、原因の細菌の種類が簡単に推定でき、治療に使用する薬の選定に役立つことがわかりました。
抗生物質の使用を減らすことで、耐性菌のリスクを下げるだけでなく、医療費の削減や副作用のリスクを下げるなど患者さん側のメリットもあるのではないかと思います。
クリニックでもやっているところはあるみたい。まずは顕微鏡をレンタルしてみてもいいかも
参考:
Global Antimicrobial Resistance and Use Surveillance System (GLASS):WHO
金沢医科大学 臨床感染症学・感染症科 質問箱
佐賀大学 医学部附属病院 検査部
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